(ですよねぇ~)
私がバーの雰囲気に慣れ始めた、とある日に。
あの人はドアを開けて入ってきた。
T「あらSさん、いらっしゃい」
?「どうも、こんばんは」
客「きゃ~Sさん!」
客「あ、Sさんだ!」
客「待ってました~!」
なんだ?
アイドルでも来たのかなと視線を向けると背の高いダンディな殿方が若い男の子達に囲まれていた。
(ほぇ~カッコいい人が居るもんだ)
(あれ…何処かで見たことがあるような?)
(きっと縁遠い存在だろうな)
これが初めて見た時の感想。
客「Sさん、ここ座って~!」
客「な~に言っちゃってんのよ!私の隣よ!」
客「Sさん、私とカラオケ歌いましょ!」
(何あのちょっとした激戦区)
なんて思いながら眺めていた。
T「あんた達うるせぇわよ!Sさん好きな席に座ってね」
S「うん、じゃあ…」
(私の隣の席が動いた)
(はい?)
Sさんは持っていた鞄を私の隣の椅子に置く。
(ですよねぇ~)
客「きゃっ、私の隣でいいの?」
S「うん、乾杯する?」
客「するする~!マスター早くお酒だして!」
客「ちょっとズルい~!」
客「Sさん、私とも乾杯して!」
S「勿論だよ」
客「Sさん居るよって、友達に連絡しよ~」
はしゃいでる客は、みんな可愛らしくて若い子達だった。
ちょっと期待した自分が馬鹿馬鹿しくて、烏滸がましかった。
私みたいな、いつも端っこの席に座ってる奴なんぞ目に留まるわけなかった。
私は下を向いてお酒を飲んだ。
Sさんが来てから騒がしい店内。
T「K?元気ないわよ?」
私「ん、飲みすぎました」
T「そう?水出すわね」
私「うぅん、大丈夫」
マスターは私とたくさん話してくれた。
実は騒がしい人は苦手なんだと初めて教えてくれた。
入店可能な年齢層は30代~と謳っていたが、お客さんがお客さんを呼ぶとも言うこの業界。
今日みたいな日は致し方無いと二人で苦笑いをした。
私は終電の大分前においとました。
帰り道に、一言も話さなかったけれど何となく頭にSさんの顔が浮かんだのを覚えてる。
また…来週会えるかなと少し期待した。