「いやいや、そんな…やめてください」
翌週の水曜日。
季節はすっかり冬の12月直前。
もうバーまでの道のりも覚えて、気楽に向かう様になっていた。
話せるだけで楽しいし時間を忘れてしまう空間。
そんなお店を私は好きになっていた。
聞けば12月24日はパーティーもやるとのこと。
沢山の人が来るかな?とパーティーが待ち遠しかった。
私「こんばんはっ」
T「来たわね、いらっしゃい」
客「あ、K君おはよ~」
私「今日も冷えますね」
いつもの水曜日だ。
私はいつもの席で、いつものお酒を頼んだ。
他愛ない話して笑っていると。
(ガチャ)
S「こんばんは」
T「Sさん、いらっしゃい」
私(!)
T「珍しいじゃない、二週連続で来るなんて」
S「うん?たまたま近くに居たんだ」
T「あらっ!たまたまでしか来てくれないのね」
S「ハッハッハ、勘弁してよマスター」
T「いいわよ、好きな席に座って」
S「うん」
近寄ってくるSさん。
(あ、また私の隣に鞄おいて二つ隣に座るんだろうな)
私の隣の席が動く。
(この人の固定席はそこなんだろうか)
S「隣、いいですか?」
私「ふぇっ!?」
S「誰かここ座るのかな?空いてますよね?」
私「は、はひっ」
S「じゃあ、ここいいですか?」
私「ど、どうぞ」
S「失礼」
他に席は空いてるのに、私の隣に座ろうとするSさんを見て一同、一瞬( ゚д゚)ポカーン
S「よっこいせ」
T「は~い、おしぼり」
S「ありがとう」
T「今日は何から飲むのかしら?」
S「う~んとね…君は何飲んでるの?」
私「しょ、しゃうちゅう(焼酎)のボトル割りです」
T「ボトル割り!?」
S「なにそれ、すごい」
私「し、焼酎のお茶割りです」
S「そっか、じゃあ僕もしゃうちゅうのお茶割り!」
T「は~い、どうぞ」
S「マスターも飲んでよ」
T「頂きま~ちゅ」
S「先にこの子と乾杯していいかな?」
私(ふぁ!?)
T「あら~?」
S「ね、乾杯しよう!」
私「あ、ぁあはい」
S「乾~杯、僕Sです」
私「Kです、初めまして」
S「K君か、宜しく!」
私「宜しくお願いします」
S「先週も居たけど毎週水曜日に居るの?」
私「は、はひっ、いつも水曜日にお邪魔してます」
S「そうなんだ~、木曜日が休みなのかな?」
私「そ、そうです」
S「そんなに緊張しないで、人見知りなのかい?」
私「は、はい」
S「大丈夫だよ、怖がることないからね」
T「んま〜、Sさんのファンが怒りそうね」
S「え~っ?ファンなんて居ませんよ、君には居るかもしれないけど」
私「ぃ、居ないですっ!」
T「ふふっ」
私(何を笑っとるかこのバ…じじい)
S「そうなの?良かった」
T「何赤くなってんのよ」
私「え、えぇっ」
T「タイプなんでしよ~?」
S「えっ、本当に?」
この時ほど自分をバカ野郎だと痛感したことはなかった。
私「いやいや、そんな…やめてください」
訳「いやいや(からかわないで)そんな…(こんなカッコいい人と吊り合う訳ないてすし、冗談は)やめてください」
こんな感じ。
補足部分多すぎ、どんだけテンパってたんだと。
頭の中がもう、凄いことになってた。
何で隣に座って優しく微笑んでるのかとか。
何でそんな急接近なのかとか。
もうパニック過ぎて。
出た言葉が…残念過ぎて。
穴があったら入りたいぐらいだった。
(ですよねぇ~)
私がバーの雰囲気に慣れ始めた、とある日に。
あの人はドアを開けて入ってきた。
T「あらSさん、いらっしゃい」
?「どうも、こんばんは」
客「きゃ~Sさん!」
客「あ、Sさんだ!」
客「待ってました~!」
なんだ?
アイドルでも来たのかなと視線を向けると背の高いダンディな殿方が若い男の子達に囲まれていた。
(ほぇ~カッコいい人が居るもんだ)
(あれ…何処かで見たことがあるような?)
(きっと縁遠い存在だろうな)
これが初めて見た時の感想。
客「Sさん、ここ座って~!」
客「な~に言っちゃってんのよ!私の隣よ!」
客「Sさん、私とカラオケ歌いましょ!」
(何あのちょっとした激戦区)
なんて思いながら眺めていた。
T「あんた達うるせぇわよ!Sさん好きな席に座ってね」
S「うん、じゃあ…」
(私の隣の席が動いた)
(はい?)
Sさんは持っていた鞄を私の隣の椅子に置く。
(ですよねぇ~)
客「きゃっ、私の隣でいいの?」
S「うん、乾杯する?」
客「するする~!マスター早くお酒だして!」
客「ちょっとズルい~!」
客「Sさん、私とも乾杯して!」
S「勿論だよ」
客「Sさん居るよって、友達に連絡しよ~」
はしゃいでる客は、みんな可愛らしくて若い子達だった。
ちょっと期待した自分が馬鹿馬鹿しくて、烏滸がましかった。
私みたいな、いつも端っこの席に座ってる奴なんぞ目に留まるわけなかった。
私は下を向いてお酒を飲んだ。
Sさんが来てから騒がしい店内。
T「K?元気ないわよ?」
私「ん、飲みすぎました」
T「そう?水出すわね」
私「うぅん、大丈夫」
マスターは私とたくさん話してくれた。
実は騒がしい人は苦手なんだと初めて教えてくれた。
入店可能な年齢層は30代~と謳っていたが、お客さんがお客さんを呼ぶとも言うこの業界。
今日みたいな日は致し方無いと二人で苦笑いをした。
私は終電の大分前においとました。
帰り道に、一言も話さなかったけれど何となく頭にSさんの顔が浮かんだのを覚えてる。
また…来週会えるかなと少し期待した。
前書き。
前書き
私のブログには同性愛の内容が含まれています。
ご理解頂ける方のみ読んでやって下さい。
ここに書き記す事に意味がある無いに関わらず残したいと思う気持ち一心でブログを作りました。
内容は男二人が出会ってから一緒になるまでの長い道のり。
誰も読んでいなくても大切に書こうと思います。
あの人と出会った日から、今日までを。
忘れがちな事を忘れないように。
そして今日からも忘れないように。
*登場人物について多少のフェイクはいれます*
時系列や出来事に脚色はありません。
私の名前はK、39歳。
相手はSさん、45歳。
お互い関東地区に勤めるサラリーマン。
私は冴えない男で、性格も引っ込み思案。
遠慮がちで争いは嫌い、出世しないタイプ。
女性から見たら魅力の欠片もない。
が、お互いに興味がない為か女友達や同僚は安心して女子会や宅飲みに誘ってくれる。
前に上司に「噛めば噛むほど味が出るスルメみたいなヤツ」
と言われて自分でもしっくりきた。
Sさんは同業者で、職場が違う先輩みたいなもの。
出会う前から男女ともに言い寄って来る人は居たそう。
「出会いも経験も大体、人並み」と言っていた。
うん、なんか分かる…といった具合。
性格は明朗で気のいい人だけど…「バカ」が付く程の釣り好き。
出会いは酒の席。
そう、ゲイバー。
もう3年前の2013年12月。
毎週、水曜日。
2013年某日。
当時36歳の冬。
私は前々から興味があるゲイバーに行ってみたくなった。
ネットで調べて、行くお店も決めた。
自宅を出る前から緊張していた。
お店がある駅に着きソワソワ。
お店までの道を自宅で何度も確認したのでソワソワしている間にお店の前に到着。
入る決心が固まるまで近辺を歩き回った。
「ここら辺に居る人はみんな…お仲間さん?」
そんな目で歩いていたせいか、一人の男の人と目が合った。
「めっちゃ見てる…ちょっと怖い」
来てよかったのか、一瞬迷う。
公園のベンチに座りお店に行くか悩む。
一時間程、悩んだ末に覚悟を決めた。
ドキドキしながら店のドアを開けた先に居たのはマスターのTさんと数人のお客さん。
入った途端、店内の人達の視線が集まる。
T「いらっ…しゃいませ~?初めてかな?」
私「あ、はひっ…いいですか?」
T「どうぞ好きなところに座ってね」
私「はいっ」
T「何にしましょ?」
私「ビールありますか?」
T「うん、麒麟かアサヒ」
私「ではっ麒麟でっ」
T「は~~~い、おしぼりとビールお待たせ」
私「(一気飲み)」
T「(*゚Д゚*)」
私「あっ」
T「こういう店初めて?」
私「あ、はい…」
T「緊張してるんだ」
私「してます、物凄く」
T「一気飲みしちゃってるもんね(笑)」
私「(〃ノωノ)」
T「あなた男が好きなの?そんな雰囲気無いけど」
私「はい…」
T「名前は?何歳?」
T「どこ住んでるの?」
T「彼氏いるの?」
T「どんな人がタイプなの?」
っとまぁ、マスターには直ぐに素人だとわかって世間話をしながら緊張を解してくれた。
そのお店は街のゲイバーの登竜門的なお店だった。
マスターのTさんがお客さんの好みにを聞いて、その人好みの人が集まるお店を紹介してくれる。
私は当時、自分でも自分の「好み」が分からなかった為にお店は紹介されなかった。
しかし…驚いた事に人が次から次へと入ってくる。
こんなに居るもんなの?と衝撃を受けた。
私が入ってから2時間ほどで満席になったので、その日は帰った。
「またおいでよ」
嬉しくて、楽しくて、また来ようと思えた。
翌週の同じ曜日にまた行った。
その次も同じ曜日に。
「毎週、水曜日に君居るね」
「あんた水曜日の子ね!名前は?」
常連さん達は覚えてくれるようになった。
顔見知りは増えていった。
この世界の飲み方やタブーなどを色々と教えてくれる人もいて、勉強になった。
通いだして約1ヵ月経つと席の定位置もできた。
なんと。
端っこ。
そう壁の隣。
「ここがいい、この席落ち着きます」
顔見知りや友達が増えて、話すのは楽しいけれど…大人数で話すのは苦手なままだった。
隣が壁の席なら片方にしか席が無いため、座るお客さんは一人。
ゆっくり話せる。
話せなくても目の前がマスターの定位置。
ウブウブな私を助けてくれる完璧なトライアングル。
( ゚∀゚)ょっしゃぁ( ゚∀゚)
そんな事を考えながらお酒を飲んでいた時
店のドアが開いた。